まとめ買いした薬瓶とアンプルまみれのダンボール箱の中には武田や塩野義、バイアルなどの大手製薬会社の製品がいくつか…
その中には一部の界隈の人々の間では非常に有名な製薬会社の製品が紛れていました
ということでさっそくお披露目です
[ミレバール]
緩下劑
ミレバール散 十倍用
二十五瓦入 十分中主薬日本薬局方ビサチン一分含有
用量 一回○、○五瓦乃至○、一五瓦
空腹時又ハ臨臥時頓用
℗ LAXATIVE
MILEVAL ミレバール散 10% 25g.
下は筆記体で英文が書かれていますが読めません
日本語版の英訳だとは思いますが…
○停のハンコが押されていますが、これは1939年末から1946年に公布された価格等統制令を表すものと思われます
製造發賣元 大日本住友製藥株式會社
大阪市東區道修町三丁目二十五番地
支店 東京市日本橋區本町二丁目
会社名と住所が印刷されています
專賣特許「製法」 18.1.11
製造法を特許に登録してたんですね〜
薬封には[DAINNIPON・SEIYAKU KWAISHA]とあります
下の方が破れていたので、そちらから開けられました
途中の字は[KABU2?]などとあるようですが、正直よく分かりません
蓋には[
MILEVAL]との文字、全体的に緑を基調とした、シンプルながらもレトロなデザインになっています
中身はこちら!
℗ 緩下劑
ミレバール 十倍用
二十五瓦 十分中主薬 日本薬局方ビサチン一分含有
用量 1回 0.05〜0.15Gm 空腹時又ハ臨臥時頓用
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18.1.11 製造發賣元 大日本住友製藥株式會社
大阪市東区道修町三丁目二十五番地 支店 東京市日本橋区本町二丁目
文字は箱もラベルも左書きなんですが、数字を見ると昭和十八年の一月十一日の製造なんでしょうか?
てっきり戦後のものかと思っていました
銀色に塗られた木栓には[JAPAN❁PHARMA.ESTABLISHMENT]の浮き彫り
この会社専用のものではなく、薬用の汎用蓋なんでしょうか?
未開封であることを示す綺麗な[封緘之証 TRADE
℗MARK Japan phamaceutical establishment osaka]
薬の封緘はとてもレトロで可愛いものが多いので、マッチラベルのように専門のコレクターがおられそうですね〜
エンボス全くなしの瓶本体はなんだか表面がザラザラしていて鮫肌チックです
中には怪しげな白い粉…(下剤です)
瓶にはボール紙の梱包の他に、説明書が巻かれていました
新緩下剤 「製法特許」 ミレバール MILEVAL
組成 本劑は他の一般合成下剤の夫れとは異なりイサチン誘導體なるヂアセチール・ビスオキシフェニールイサチンなり。
構造式 (溶融點242℃)
性 狀
本劑は白色結晶製粉末にして無味無臭、水及希鹽酸に不溶、アルコールに難溶、エーテルには殆ど不溶性なり。而してアルカリ性に依り醋酸並微弱酸のイサチン誘導體とに分解す。
本劑の通下作用は實に此分解産物の大腸刺戟に起因す。
特 徴
一、本劑は消化管よりの吸収絶無にて傷に於て緩和なる作用をなしたる後全部便と共に排泄せらる。 從つて諸臓器殊に腎臓、肝臓、心臓を障害すること毫もなく又何等中毒作用を呈することなし、これ本劑の最大特質にして他の合成下剤に優る一大利點とす。
二、全く無味無臭にして服用極めて容易且容量甚僅少にて確効を奏し、妊婦、小兒に好適す。
三、胃を刺戟すること絶無にして從して惡心、嘔吐等を起すことなく、連用するも食慾減退其他の胃障害を惹起すること更になし。
四、アントラヒノン又はグリコシド製劑の如く尿の着色、瀉下等を生起することなく自然便通の如く緩和なる通利作用を呈す。
五、連用するも習慣する事なし。
適應症
一、各種原因に由る便秘
急性便秘、慢性便秘、常習性便秘 移動性盲膓症及長S字狀結膓症に由る便秘、手術後の膓アトニー等
二、手術前又は驅虫藥使用時の膓内淸掃
三、便秘に由る頭痛、頭重、逆上等
用量及用法
粉 末 一回○、○○五瓦-○○、一五瓦 一日 ○、○一五瓦 -○、○二五瓦
散劑(一○%)一回 ○、○五瓦-○、一五瓦(十分中一分のビサチン含有) 一日 ○、一五瓦-○、二五瓦
錠劑 一回 一-三錠(一錠中ビサチン○、○○五瓦含有) 一日 三-五錠
空腹時又は就寝時頓用すれば五ー八時間後に奏効す。尚症狀により增減せらるゝも差し支へなし。 特に頑固なる便秘に對しては一日二回ー三回分服せらるゝを適當とす。
注 意
腹痛又は頻繁なる瀉下は其人の特異性によるか又は服用量の多き爲めに起ることあるを以てかゝる場合には次回減量して服用されたし。
包装 {粉末 一瓦入 五瓦入 二五瓦入(日本藥局方ビサチン)
{散劑(一○%) 二五瓦入 一○○瓦入
{錠劑 二○錠入 五○錠入 一○○錠入 五○○錠入
大阪市東區道修町參丁目貮拾五番地
℗製造發賣元 大日本住友製藥株式會社
支 店 東京市日本橋區本町貮丁目
支 店 奉天市大和町區浪速町
出張所 臺北市榮町三丁目
出張所 札幌市南三條西八丁目[連用するも習慣する事なし]がちょっと怪しいですよね(笑)
かの悪名高いオクスリを製造していた会社だけに、余計に完全には信用できないです
[カルチコール末]
ズングリした形状のコルク栓瓶です
蓋はミレバールと同じものです
℗ カルチコール末 Calticol 10Gm
葡萄糖酸カルチウム
適應症 結核性疾患、心臓衰弱、蕁麻疹、濕疹、喘息、一般溶出性
體質、所謂腦膜炎、小兒痙攣、浮腫を伴ふ疾患、諸種出血、出血性素質
用量 1日 1.5ー2gm 三回分服
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P344 大阪道修町 大日本住友製藥株式會社 東京本町
調べてみると、低カルシウム血症などに対して用い、血液中のカルシウムを補うことで手足の痙攣などを抑える薬のようです
底には℗のマークがエンボスされています
さて、いよいよ本命の瓶です
[ヒロポン]
仕事の能率を上げるためなどに使用されていた除倦覚醒剤のヒロポン、錠剤瓶です
この緑の小瓶はだいたいヒロポンに使われていたようですが、上記のミレバールの錠剤を入れていた場合もあったようです
また、透明瓶にヒロポンのラベルが貼られているものもあり、製品によって分けられてはいなかったようです
キャップは金属の他ベークライト製、さらに紙製のものもあり、物資の窮乏さを窺わせます
公園の柵のすぐ側、木などが植えてある縁のような部分に、神薬やライオンのペロペロ?の破片とともに埋まっていました
穿り出した当初は何じゃこれ?でしたが、しばらくして[あの例の緑の小瓶ってもしかして…]と気付きました
状態は相当よろしくなく、胴体に打ち傷が五、六ケ所、口には縦にヒビが走り幾つもの丸い欠けが…
逆にここまでボロボロなのによく割れなかったものです
ネジ蓋の口は擦ってあります
底に℗のエンボスがあるものもあるようですが、これにはありません
指先ほどのこんなに小さな瓶が、人を狂わせる悪魔を閉じ込めていたなんて…
いやはや恐ろしいものです
兵器生活さんでは貴重な箱付きヒロポンの説明書を見ることができます
思い切り[中毒作用はない]と書いてしまうあたり、大変恐ろしいです
戦後日本での広がりようはサザエさんの前身となる漫画「似たもの一家」に取り上げられるほどで、子どもたちが服用してハイになってしまう様子が描かれています
検索してみると他にも特攻隊員が出撃前に打たれていたとか、受験勉強のときに活用していただとか到底信じられないエピソードが次々に見つかります
お薬関係の歴史を面白く学べる
北多摩薬剤師会さんのサイトを参照すると、サイズは比較的よく見かけるこの20錠瓶の他に、50錠、500錠があったようです
あと、その中間の100錠らしい大きさの瓶を見たような…
このサイズも積極的に見つけていきたいですが、不思議にも堀りで出たという例はあまり多くありません
中毒者続出で戦後日本に蔓延したことを考えると、ある程度の年代のハケでサイズ問わずポロポロ出そうなものですが…
内服では効果発揮までに数時間かかるので、即効性を求めて静脈注射のアンプルを買い求める人々が多かったためでしょうか?
かつて国公認で麻薬を売っていたという、信じられない黒歴史の一幕がここにあると思うと感慨深いですね
現在では箱付き説明書つきの完全品となると、諭吉さんは軽々超えるほどマニア垂涎の的のアイテムである辺り、中身はカラの今でも人々を中毒にして止まない、実に罪な瓶です